ベルリンの壁

また陽が沈んでいく。あのベルリンの壁の向こうに。
私は毎日それを見届ける。夕陽にあの人への言葉を託す為に。
日が沈み切り、伸びてくるあの壁の影。
それが私に届くまで私は壁を見つめ続ける。
視線の先にあの人がいることを期待して。

また月が歩んでいく。あのベルリンの壁を渡って。
僕は毎日それを眺める。彼女も同じ月を見ているはずだから。
あの恨めしい壁を明るく照らす月の光。
それが窓から見える限り、僕はその光を浴び続ける。
月の鏡に彼女が映ることを期待して。

3メートル60センチのベルリンの壁が分かつは地上の全て。
国を、世界を、そして愛しあう二人を。
同じベルリンの空の下にいるのに、壁の向こうにいる相手は月より遠い。

また鳥が飛んでいく。あのベルリンの壁を越えて。
鳥は毎日それを見下ろしている。自分を妨げられない壁をせせら笑って。
あの冷たい壁は火のない戦争が生んだ氷の塊。
それが日光に融けるその日まで、二人は鳥に憧れ続ける。
夢に愛する人との逢瀬を想い描いて。


あとがき

 この詩はこのサイトを立ち上げてから新しく書いたものです。やっぱり発表済みの作品ばかりではよくないと思いまして。ちなみにタイトルはいつもの通り、櫻田さんのところの100のお題です。
 副題は『The wall can't separate the sky』(その壁は空を隔てられない)。ドイツ語でやれればよかったのですが、僕がとっているのはフランス語でして(ほ〜。じゃ、フランス語でいいから書き換えてくれよ)。
 ベルリンの壁は地上にいる人間をほぼ完全に隔離していましたが、空は分けられず、壁に隔てられた人達も、頭上の空は同じものである、という話です。壁に隔てられた人々が共有するのはベルリンの空だけ、それが唯一の慰みである、そういうことを言いたくて書いた詩です。2節目まですんなりと出来たのですが、ラストで4日間悩み続けました。
 ちなみに、ベルリンの壁は建設開始が1961年、崩壊が1989年、つまり28年間もベルリンの街を隔て続けました。この二人がこの時18歳でも会う頃には46歳。夢に描いた逢瀬は果たして成立したのでしょうか…?


Copyright 2003 想 詩拓 all rights reserved.